危険因子
発癌の危険性は、さまざまな遺伝的要因や環境的要因によって増大します。
家族歴と遺伝的要因:
ある家族では、特定の癌になるリスクが普通の人よりも高いことがあります。リスクが増大する原因は、単一の遺伝子による場合もあれば、いくつかの遺伝子の相互作用による場合もあります。家族に共通する環境的な要因が遺伝子の相互作用に影響し、発癌を促す場合もあります。
染色体の数や構造の異常も癌のリスクを増大させます。たとえばダウン症の人には21番染色体が通常の2本ではなく3本あり、急性白血病の発症リスクが普通の人の12〜20倍になります。
年齢:
癌の中にはウィルムス腫瘍、網膜芽細胞腫、神経芽細胞腫などのように、ほとんど小児にしか発生しないものがあります。これらの癌が小児に生じる原因はまだ解明されていませんが、遺伝的要因は危険因子の1つです。一方、ほとんどの癌は成人により多く発生します。米国では癌患者の60%以上は65歳以上の高齢者で、発癌のリスクは25歳以降は5年ごとに倍増していきます。発癌率が高くなっていくのは、より多くの発癌物質に長期間さらされる一方で、生体の免疫システムは弱まっていくためと考えられます。
環境的要因:
数多くの環境的要因が発癌のリスクを増大させます。
産業廃棄物やタバコの煙による空気の汚染は、癌のリスクを増大させるおそれがあります。多くの化学物質に発癌性があることが証明され、他の化学物質にも疑わしいものが多数あります。たとえばアスベスト(石綿)にさらされた人は肺癌や中皮腫(胸膜の癌)になりやすく、とりわけ喫煙者ではその傾向が強まります。化学物質にさらされてから癌になるまでには、かなり長い年月がかかることもあります。
喫煙は発癌物質を生じさせ、肺癌や口腔癌、喉頭癌、腎臓癌、膀胱癌の発症リスクを高めます。
放射線も発癌の危険因子です。人体への紫外線照射は主に日光によるものですが、浴びすぎると皮膚癌の原因となります。電離放射線は特に発癌性の高い放射線です。地表から発する放射性のラドンガスも、肺癌のリスクを増大させます。ラドンは通常はすみやかに大気中へと拡散し、有害物質として作用することはありません。しかし、多量のラドンを含む土の上に建物があると、屋内にラドンが蓄積され、ときには生体に有害なほどの高濃度になる場合があります。ラドンが呼吸とともに肺に入ると、肺癌になるおそれがあります。喫煙者では、ラドンによる肺癌のリスクはさらに高くなります。
地理的要因:
癌のリスクは居住地域によっても異なります。地域差が生じる原因は往々にして複雑で、まだあまり解明されていませんが、おそらく遺伝や食事、環境といった多数の要因が関与していると考えられます。
たとえば日本では大腸癌や乳癌の発症率は低いのですが、米国に移住した日本人では大腸癌や乳癌の発症率が増大し、最終的には米国人と同程度になります。また、日本人の胃癌の発症率はきわめて高いのですが、米国に移住し欧米式の食事をするようになった日本人では、胃癌になる割合は米国人と同程度に低くなります。ただし、こうした発症率の低下傾向は移住者の次の世代以降で明らかになる場合もあります。
食事:
食品中に含まれる物質が癌のリスクを増すことがあります。たとえば脂肪の多い食事は大腸癌、乳癌、前立腺癌のリスクを高めます。多量の飲酒は食道癌の発症率を高くします。燻製食品、漬物、焼き肉などが多い食事では胃癌の発症率が高くなります。
ウイルス感染:
ヒトの癌の原因として数種のウイルスが知られています。また、これ以外にも発癌との関与が疑われているウイルスがいくつかあります。パピローマウイルス(性器いぼの原因ウイルス)は子宮頸癌の原因の1つです。B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスは肝臓癌の原因となります。ヒトのレトロウイルスにはリンパ腫や血液系の癌の原因となるものがあります。
同じウイルスでも、地域によって発癌への関与の仕方が異なる場合があります。たとえばエプスタイン‐バー(EB)ウイルスは、アフリカでは癌の一種であるバーキットリンパ腫の原因となり、中国では鼻や咽頭の癌を発生させています。
炎症性疾患:
炎症性の疾患によっても、癌のリスクは高くなります。たとえば潰瘍性大腸炎の患者は、やがて大腸癌になる場合があります。寄生虫への感染が炎症を引き起こし、それが癌になる場合もあります。たとえばビルハルツ住血吸虫に感染すると、膀胱への慢性的な刺激から膀胱癌になることがあります。
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