尿細管性アシドーシス
腎臓の主な機能は、血液をろ過してきれいにすることです。また、腎臓は血液中の水分、電解質、栄養素などのバランスも維持しています。腎臓のこうした働きは、糸球体の毛細血管を血液が流れ、これをろ過することから始まります。このしくみによって、大量の水分や電解質などの物質が尿細管に運ばれます。そして、尿細管の内壁の細胞が体に必要な水分、電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム)、栄養素(ブドウ糖、アミノ酸)を再吸収して血液に戻します。この細胞は、尿になるろ過液(原尿)が尿細管を通過する間に、血液中の老廃物や薬物を取り除いてろ過液の中に排出する働きもしています。
尿細管の内壁の細胞の機能が妨げられる病気を、尿細管障害といいます。また、嚢胞性腎疾患(のうほうせいじんしっかん)と呼ばれる状態では、腎臓に液体のたまった袋(嚢胞)が形成されて尿細管を強く圧迫するために、尿細管細胞の機能が妨げられます。腎臓の尿細管障害と嚢胞性疾患の多くは遺伝性です。出生時に見つかる遺伝性疾患もあれば、何年もたってから初めて影響が明らかになるものもあります。
尿細管性アシドーシスでは、尿細管がうまく機能しないため、血液から酸を取り除いて尿に排出できなくなります。
食物の代謝過程で生成した酸は、血液に入って循環します。腎臓はこの酸を血液から取り除き、尿中に排出します。この機能を主に行っているのが尿細管です。代謝性アシドーシスの原因の1つである尿細管性アシドーシスでは、酸を排出する腎臓の能力が一部損なわれ、血液中の酸の濃度が上昇します。電解質のバランスも崩れます。尿細管性アシドーシスによって、以下の異常が起こります。
尿細管性アシドーシスは遺伝性であるか、アセタゾラミドやアムホテリシンBなどの薬物、特定の重金属による中毒、全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群などの自己免疫疾患などが原因で起こります。
症状と診断
尿細管性アシドーシスには、1型、2型、4型の3つのタイプがあります。タイプによって症状は少しずつ異なります。1型と2型では血液中のカリウム濃度が低くなり、神経系の異常による筋力低下、反射の低下、麻痺(まひ)などが現れます。4型ではカリウム濃度の上昇がよくみられますが、症状を引き起こすほど高くなることはめったにありません。濃度が非常に高くなると、不整脈や筋麻痺が起こります。1型では腎臓結石が生じることがあり、腎臓の細胞が損傷を受け、場合によっては慢性腎不全になることもあります。
筋力低下や反射の低下といった特徴的な所見があり、検査結果で血液の酸性度が高く重炭酸塩とカリウムの濃度が低い場合、診断として1型または2型の尿細管性アシドーシスが考えられます。血液の酸性度が高く重炭酸塩の濃度は低いが、カリウムの濃度は高い場合には、4型尿細管性アシドーシスが疑われます。尿細管性アシドーシスのタイプを確定する特殊検査が有用です。
治療
治療法は尿細管性アシドーシスのタイプによって異なります。1型と2型では重炭酸ナトリウム(重曹)の溶液を毎日飲んで、食物から生成する酸を中和します。この治療は症状を軽減し、腎不全や骨の病気の予防や悪化防止にもなります。このほか治療用に特別に調製された溶液もあり、カリウムの補給が必要になることもあります。4型のアシドーシスは軽いため、重炭酸ナトリウムが不要な場合もあります。血液中のカリウム濃度が高い場合にはカリウムの摂取を制限し、必要であれば利尿薬を使って抑えます。
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